数学もぐら
 

進学塾の数学


 私の娘は中学1年生。とうとう市内にある進学塾S予備校に入ってしまった。夏休みの夏期講習に行くことを家内と決めたと聞いたときにはいやな予感がしていたのだ。で,気がついたら,もう2学期から正式に通うことを申し込んでしまったと言う。
 塾の数学テキストを開いてみた。さすがに商売だけあって,あらゆるパターンの問題が網羅されている。別冊で練習問題集もある。中間・期末テスト対策用の問題集もある。これだけこなせば,確かに力はつくはずだ。
 でも,何かが足りない。何かが違う。もう一度,テキストを前書きから熟読してみた。
 前書きにもこんな言葉が出てくる。
 曰く, 「これを繰り返し解くことが,数学を得点源にする第一歩だ。 」
 また曰く,「S塾のテキストがすべて解ければ,テストで満点がとれるはずだ!」
 そうだ!このテキストに書かれているのは,数学の点数の取り方であって,数学ではないのだ!!
 数学のテストで点を取る方法が身についたからといって,数学が身についたわけではない。水族館のオットセイが器用にラッパを演奏する。キーボードを演奏する。すばらしい芸だと思うけれど,オットセイにはおそらく音楽を演奏しているという自覚はない。塾がやっているのは,オットセイにラッパやキーボードを鳴らす方法を教えることであって,音楽ではないのだ。だから,オットセイは音楽を楽しんではいないだろう。楽器の音を出すこと自体は楽しんでいるかもしれないが。
 こんなことをするから,「数学なんか勉強して何の役に立つのか」なんていう疑問が出てきてしまうのだ。普段の生活の中で,数学の授業の時間以外に,一次方程式を解くことはおそらくない。分数のわり算だって,おそらく使うことはない。問題の解き方だけを教わったって,テストが終わってしまえばただの無駄な知識になってしまうのは当たり前なのだ。数学なんて無用の長物に思えるのは当たり前なのだ。そんなふうに数学が自分の人生にとって有用かどうかと考える力こそが,「学校の数学」で養われた力なのに。
 それにしても,テストで点数をとることに目的を特化するのであれば,どうして塾は学校の授業より先行するのだろうか。点数をとらせたいのなら,予習をするのではなく,復習をする方に力を入れた方が効果的なのは明らかなのに。学校の授業で学習した内容を塾でしこたま演習してくれれば,テストの点数は面白いように伸びていくはずなのに。そして,塾のお好きな「トップ校」へ合格する得点力をつけることができるはずなのに。
 いま,私自身がやっている授業は,1次式の計算の学習が始まったばかりだ。娘が塾のテキストで解いているのは,1次方程式の応用問題だ。1ヶ月ぐらい先の内容をやっていることになる。当然,娘は理解できていない。教え込めば1次方程式の応用問題ぐらい解けるようになるだろうが,それはオットセイがラッパを吹けるようになるのと少しも変わらない。私の娘はオットセイではないのだ。
 とは言うものの,世間の親御さんたちは,夕食の後,勉強もせずにテレビを見てゴロゴロしている我が子を見ると,塾に入れずには入られないのだろう。その気持ちは,それはそれでとってもよくわかるのだ。
 でも……。

2004.09.08.(Wed.)