数学もぐら
 

新指導要領で学力は低下するのか


 小中学校では今年から新しい指導要領による授業が完全実施されることになった。新しい指導要領の特徴は,土曜日が毎週休みになったことと,それに対応して学習内容が平均3割削減されたことだろう。
 このため,子どもたちの学力が低下するのではないかということが盛んに心配されている。特に塾なんかはそれを声高に叫んでいて,塾生を増やそうと一生懸命だ。
 でも,本当に学力は低下するのだろうか。
 そもそも,学力が低下するっていうのは,具体的に何がどうなることなのだろうか。
 学習内容が3割削減されたって,学力が低下するわけではないだろう……,ずっとそんな気がしてきた。
 たとえば,今の中学校数学の教科書には不等式というものが載っていない。だから,今の中学3年生は不等式の解き方を知らない。もし,不等式をまだ教えていた頃のテストを今の3年生に解かせれば,不等式の解き方を知らないのだから,その分だけ低い点数を取るだろう。でも,そんなふうに点数が下がっても,学力が下がったということにはならないと思うのだ。
 たとえて言うと,「学力」というのは「器」だと思うのだ。これから長い人生を生きていく中で,いろいろなことを勉強していかなければならないし,たくさんの知識や技術や知恵を身につけていかなければならない。それらを入れる「器」が「学力」なのだと思う。この器は,中に物を入れると,それが刺激となって器自体が大きくなっていくのだ。その,「中に入れる物」というのが,数学で言えば「式の計算」であり「関数」であり「図形の証明」であったりするわけだ。だから,「不等式」の学習をしなくなったというのは,中に入れる物が少なくなったというだけであって,「器」自体が縮んだわけではないのだ。
 人間はそれぞれ個性があるから,それぞれが持っている「器」だっていろいろな大きさがある。300mlの器の生徒もいれば,700mlの器の生徒もいる。それなのに,いままではどの生徒にも500mlの物を入れようとしていた。だから,700mlの生徒はなんなくそれを飲み込めたけど,300mlの生徒は200mlをこぼしてしまっていた。もちろん刺激を受けて器は大きくなるけれど,それでも300mlの器がすぐに500mlになれるわけではない。やっぱりこぼしてしまうのだ。で,えてして,こぼしてしまった物の方に大切な物が含まれていたりするのだ。
 それなら,器に入れる物は300mlにしよう。300mlの物を入れてそれでもまだ余裕がある生徒には,さらに追加できるようにしよう。というのが,今回の指導要領の考え方なのだと思う。
 学習内容の多い方が学力が高くなるというのなら,日本国民はずっと学力低下中だということになるんじゃないのかな。私が中学生の頃は,中学校の数学で集合論を教えていた。でも,その頃の中学生が大人になってみんな立派になったのだろうか?ならなかったから,反省して教育を変えようとしているんでしょ?教えられてもパソコンが使えるようにならないオジサン・オバサンと,教えなくても使えてしまう今の中学生と,どちらの器の方が大きいんだろうか。つまり,どちらの方が学力が高いのだろうか。
 学校で勉強する時間が減った。勉強する内容も減った。だから学力が下がるだなんて,単細胞な考え方はやめようじゃないの。

2002.09.09.(Mon.)